幼児にみる言語学習過程の観察

おっぱい=ぶ or ぷ
ストロー付きの水筒に入った水=ぶわぁ
コップに入った水=(い)ず
ミッフィー=ピッピ
これ=れ
おはし=し
おふろ=ろ
おねえちゃん=ねーねー
おにいちゃん=にーにー
ごはん=はん
おかわり=(か)り
おいも=(お)も
なっとう=と
おはし=(あ)し
うんち=(う)ち
すっぱい=ぱい
もういっかい=もっかい
重い=もい
熱い=ちい
歯ブラシ=はし
歯磨き=がき
靴下=たった
ごめんね=(め)んね
コーヒー=ひい
お散歩=んぽ
着替える=かえる
シラス=(ら)す
アンパンマン=ぱんぱん
      • ()内は、かすかに発音されているように聞こえる音。

これは、ようやく自分の意志を言葉で伝え始めようとしている、まだ1単語分しかしゃべれない幼児の片言の日本語である。だいたい1歳半から2歳前くらいの段階である。
慣れないと、全く何を言おうとしているのか理解できないのだが、その時の状況から想像力を最大限に働かせると、幼児が言わんとしていることが見えてくる。なかなか理解してあげられないと、泣いて怒られる...。

言葉の特徴

少しでも理解してあげるために、幼児言葉の傾向を観察してみた。

  • 全体的に、言葉の最後の部分が発音される傾向がある。
  • 言葉の中間はほとんど発音しない。
  • 長めな言葉は、最初と最後の音が発音される。(例:歯ブラシ=はし)

独自の言葉を定義している場合がある

  • 話しによると、オッパイ(母乳)の「パイ」が言えなくて、「プッ」とか「ブッ」などと発音していることがあって、
  • こちらで察してオッパイをあげていたら、その幼児にとっては「ぷ」あるいは「ぶ」=「おっぱい」の意味になってしまったようだ。
  • その名残からか、ストローで吸って飲む水についても「ぶわぁ」と発音するようになってしまったようである。
  • 但し、オッパイと区別するため、意図的に「ぶ」と「ぶわぁ」を区別しているところが賢い。
  • 「ぶ」と言っているのにストロー付きの水を渡すと怒るし、「ぶわぁ」でオッパイをあげても怒る。

意図的に発音が簡単な幼児言葉で話す

  • 発音する時は必ず「ねーねー」だが、
  • こちらから伝える時は、「おねえちゃんに渡して」「ねーねーに渡して」どちらも同じ行動をとる。
  • つまり、「おねえちゃん」=「ねーねー」とちゃんと理解しているようだ。
  • 話す時には、敢えて幼児が言いやすい「ねーねー」を意図的に選択しているのだ。

歌の歌い方

  • リズムに合わせて身体を揺する。
  • 歌詞はもちろん、片言の状況で正しく発音できるはずもなく、ワンテンポ遅れて各小節の最後の音だけ発音している。
  • それでも、幼児本人は楽しそうにしている。上手に歌えている気になっているようだ。


幼稚園に通う頃になると...

時間的な表現

  • 過去のことは、すべて「昨日」と表現する。
  • 3日前も、10日前も、ずっと前も、すべて昨日。
  • 但し、半日以内に起こったことについては、昨日の出来事でも「今日」と表現する。
    • 例:昨晩の寝る前に読んだ本は「今日読んだ本」になってしまうのだ。
  • 幼児の時間感覚の違いに気付くまで、話しを聴いている大人は結構混乱する。(一体いつの話しをしているの?)

タイムテーブル

  • 大好きなNHK教育の幼児向け番組の朝・夕のタイムテーブルは、完璧に頭に入っている。
  • 見逃さないために、時計の針と動きと各番組の開始時刻を関連づけて記憶している。
    • 時刻は読めないのだけど、数字は少し読める。
    • 長い針の動きを上下左右斜めに分類して覚えているようだ。
  • たまに、短い針の動きを無視していて、1時間早く行動していることがある。

聞こえた音はそのまま言葉として記憶している

  • 幼児のヒアリング能力は鋭い。
  • まったく意味のわからない言葉でも、正確に聴き取って、そのまま記憶して、正確に発音する。意味わかってないはずなのに。
絵本
  • 毎日読み聴かせる絵本は、すでに全文を丸暗記している。
  • 間違って1ページ飛ばしてしまったり、眠くなって途中端折ると、すぐに気付かれて怒られる。
  • 字は読めないはずなのに、ページめくりを連動させながら、スラスラ読み聴かされた時には驚いた。(幼児に読んでもらった時のこと)
  • ほぼ完璧に、大人の自分の読み方の抑揚のとおりに、1冊丸ごと読めてしまうのだ。(暗記しているのだけど)
  • 抑揚が自分と同じだと気付いた時には、ちょっと恥ずかしかった。
ドラえもんの歌
  • ドラえもんは、今も昔も大人気のアニメ。
  • かつての主題歌は、「こんなこといいな、できたらいいな...」で始まる歌だったが、
  • 最近は「夢をかなえてドラえもん」という主題歌になった。
  • その中で「空を飛んで、時を超えて、遠い国でも」という下りの部分、歌手のmaoさんの歌い方の特徴として「遠い(とわい)国でも」と歌っているように聞こえる。
  • 大人は字幕を見ながら歌えるので「とおい国でも」と歌うと、その瞬間、幼児に「違うよ『とわい国でも』だよ」と指摘されてしまった...。
  • 改めて聴き直してみると、確かに「とわい国でも」と聞こえる。おっしゃるとおりです。(かなわん)

文法なしの学習

  • 以上のように、日常会話、絵本、テレビやビデオ等から幼児は自然に日本語を学び、小学校入学前までには自分の意志を的確に伝えられるようになってしまう。
  • 文法を学ぶ過程は一切ない。それ以前に、幼児の中の言語が「無」の状態から始まっているのだ。
  • 言葉がないのだから、言葉で説明することも、理解することも無理な状況の中、幼児は最初、大人の会話と行動を観察して、学習していると考えられる。
  • そして、しゃべれるようになった言葉をとりあえず発音してみて、大人の反応を見て、さらに学習しているのかもしれない。

他の言語学習に応用する

  • 自分も含めて多くの方が、中学・高校と6年間以上英語を勉強してもほとんど身に付かない。
  • 一方、幼児は言葉なしの状態から同じ6年間で日常生活に困らないレベルに到達する。
  • 幼児の言語学習方法をもっと見習うべきなのかもしれない。
  • 例えば、新たなプログラミング言語を習得しようと思った時、学校では文法を体系的に理解してからコードを書いてみるという順序かもしれない。

幼児の学習方法に見習うと、どうなるだろうか?

  • 文法を学ぶ前から、良質なサンプルコードを多数実行して、その結果を体感する。
  • サンプルコードを改変して、その変化を体感する。
  • 実現可能なシンプルな機能(実用的なもの、実際に使えるもの)を目標にして、何か作ってみる。
  • 実際に自分が使うものであれば、より便利な方向に積極的にコードを改良するかもしれない。
  • コードを改良する中で、より深く言語を理解したいと思った時、初めて詳細な言語仕様・文法を調べてみるくらいで十分なのかもしれない。

人間の不思議な能力

最後に、調べていて見つかった、言語に関連する人間の面白い能力。ちゃんと読めてしまうから面白い。幼児が最初と最後の音を重視して発音することと、多少は関係しているのかもしれない。

こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です。
この ぶんょしう は いりぎす の ケブンッリジ だがいく の けゅきんう の けっか
にんんげ は もじ を にしんき する とき その さしいょ と さいご の もさじえ あいてっれば
じばんゅん は めくちちゃゃ でも ちんゃと よめる という けゅきんう に もづいとて
わざと もじの じんばゅん を いかれえて あまりす。
どでうす? ちんゃと よゃちめう でしょ?
ちんゃと よためら はのんう よしろく 

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