計画停電に対する割引について

人生で初めて経験した計画停電。そんな技があったんだと、驚きだった。計画停電が始まってすぐに、果たして自分と東京電力の間にはどのような契約があるのか?気になった。こんなことでも起きない限り、契約書なんて読み返す機会はない。調べてみると、東京電力のホームページに電気供給約款を見つけた。

今回の計画停電に対応すると思われる規定は、以下の部分に規定されていた。

  • V.使用および供給
    • 40. 供給の中止または使用の制限もしくは中止
    • 41. 制限または中止の料金割引
    • 42. 損害賠償の免責

読んでみると、非常に興味深いことが書いてある。

計画停電とは

40 供給の中止または使用の制限もしくは中止

  • (1) 当社は,次の場合には,供給時間中に電気の供給を中止し,またはお客 さまに電気の使用を制限し,もしくは中止していただくことがあります。
    • イ 異常渇水等により電気の需給上やむをえない場合
    • ロ 当社の電気工作物に故障が生じ,または故障が生ずるおそれがある場合
    • ハ 当社の電気工作物の修繕,変更その他の工事上やむをえない場合
    • ニ 非常変災の場合
    • ホ その他保安上必要がある場合
  • (2) (1)の場合には,当社は,あらかじめその旨を広告その他によってお客 さまにお知らせいたします。ただし,緊急やむをえない場合は,この限り ではありません。
http://www.tepco.co.jp/e-rates/custom/shiryou/yakkan/pdf/kyouky05-j.pdf

なるほど。今回は、(1) ニ 非常変災の場合 に該当すると思われる。

割引料金について

41 制限または中止の料金割引

  • (1) 当社は,40(供給の中止または使用の制限もしくは中止)(1)によって, 定額電灯,従量電灯および低圧電力に対する電気の供給を中止し,または 電気の使用を制限し,もしくは中止した場合には,次の割引を行ない料金 を算定いたします。ただし,その原因がお客さまの責めとなる理由による 場合は,そのお客さまについては割引いたしません。
    • イ 割引の対象
      • 定額電灯については需要家料金,電灯料金および小型機器料金の合計とし,その他については基本料金(力率割引または割増しの適用を受ける場合はその適用後の基本料金とし,従量電灯Aの場合は最低料金とし, また,従量電灯Bで最低月額料金の適用を受ける場合は最低月額料金といたします。)といたします。ただし,26(料金の算定)(1)イ,ロまた はハの場合は,制限または中止の日における契約内容に応じて算定される 1 月の金額といたします。
    • ロ 割引率
      • 1月中の制限し,または中止した延べ日数 1 日ごとに 4 パーセントといたします。
    • ハ 制限または中止延べ日数の計算
      • 延べ日数は,1 日のうち延べ 1 時間以上制限し,または中止した日を 1 日として計算いたします。
  • (2) (1)による延べ日数を計算する場合には,電気工作物の保守または増強 のための工事の必要上当社がお客さまに 3 日前までにお知らせして行なう 制限または中止は, 1 月につき 1 日を限って計算に入れません。この場合 の 1 月につき 1 日とは,料金の算定期間の 1 暦日における 1 回の工事によ る制限または中止の時間といたします。
  • (3) 臨時電灯,公衆街路灯,臨時電力および農事用電力に対する供給の中止 または使用の制限もしくは中止についても(1)および(2)に準じて割引を行 ない料金を算定いたします。
http://www.tepco.co.jp/e-rates/custom/shiryou/yakkan/pdf/kyouky05-j.pdf

なるほど。

  • 自分の契約は 従量電灯B 40Aなので、基本料金の1092円が割引の対象となるようだ。
  • 1日の中で1時間以上の計画停電した日を1日と計算して、1日につき4%の割引になる。

すると、自分の地区はこれまで6回の計画停電を食らったので、4%×6=24%の割引になりそう。果たして、自分の読解力が正しければ、1092×24%≒262円の割引になるはずである。次回の検針でちゃんと割引が入るのだろうか?かなり疑問を感じながら、密かに期待していた。

そのうち、企業法務のプロの方も、東京電力の約款について同じような見立てをしていることに気付いた。以下のページでは、計画停電による損害賠償についてまで言及している。さらには、「電気事業法27条に定める経済産業大臣の命令に基づく供給制限」と絡めて、東京電力と政府の間で話されたであろう会話まで予想していて、たいへん興味深い。

なるほど。

  • 一般家庭で損害賠償を請求するのは難しそうだ...。
  • しかし、少なくとも今回は東京電力の約款に基づいた民間主体で実施する計画停電である。
  • よって、基本料金の割引については約款で明記された1日ごと4%割引される権利がありそう。

かなり期待が高まる。

検針日

いよいよ、検針日。ポストに投函された請求書を確認すると、無情にも「基本料金 1,092円00銭」と書かれている。期待は裏切られたのであった...。

問い合わせ

詳細は忘れてしまったが、およそ以下のような趣旨のやり取りがあった。

  • 自分「3月分の請求書を見ての確認です。検針期間中に計画停電が6日実施されたんですが、約款によると割引される旨が読み取れます。今回の請求書では割引されていないのですが、割引して頂けないのでしょうか?」
  • オペ「さようでございますか。確認致します。少々お待ちくださいませ。」

...(若干の保留)...

  • オペ「今回の計画停電については、規模が大きく、どのように対応するかまだ全く決まっていない状態でして...。この場で即答することはできないのですが...。」
  • 自分「そうですか。しかし、約款からは割引されると読み取れますよね?約款でルールは決まっているのですよね?」
  • オペ「申し訳ありません。私では分り兼ねます。」
  • 自分「そうですか。では、自分のような問い合わせは初めてでしょうか?」
  • オペ「いえ、他のお客さまからも問い合わせ頂いております。」
  • 自分「では、約款に割引についての記載があることは認識していますか?」
  • オペ「存じております。」
  • 自分「割引、して頂けないんでしょうか...。」
  • オペ「それでは、この件について担当者からお電話するように致しましょうか?」
  • 自分「お願いします。」

...(連絡先を伝えて、一旦切る)...

  • 担当「先程、お問い合わせ頂いた計画停電の割引についての件ですが、こちらでも約款に定められていることは認識しています。しかし、今回のような規模と期間で実施するのは初めてのことで、たいへんご迷惑をおかけしています。割引する方向で前向きに検討していますが、現在、いつ、どのような形で実施するか、全く目処が立っていません。申し訳ありません。」
  • 自分「そうですか。それでは、実施することが決まったら連絡頂けるのでしょうか?」
  • 担当「テレビや新聞等の報道、ホームページでお伝えすることになると思います。」
  • 自分「わかりました。どうもありがとうございました。」

オペーレーターの方、担当者の方、「申し訳ありません」「ご迷惑をおかけしています」を連発していた。そして、自分も言葉足らずで、あまり追求できなかった...。ということを思い出しながら、この日記を書いていてハッとした。

  • 「割引する方向で前向きに検討しています」

果たしてこれは官僚言葉だろうか?官僚言葉では「前向きに検討する」=「何もしない」つまり、割引する方向で何もしない、ってこと?

割引の意義

  • 日本の電力会社は寡占状態であり、地方単位で見ればほぼ独占状態である。
  • 電話会社のように複数社が競争している状態なら、より良いサービスを目指して企業努力が多少也とも生まれる。
  • しかし、電力については関東地方に住む限り、選択肢は東京電力しかない。
  • 仕事の事情、土地家屋の所有事情などにより、多くの人はより良い電力を求めて移住していないのが現状と思われる。
  • 停電が頻発しても、契約している電力会社の改善をじっと待つしかないのである。
  • ところで、停電に対する割引条項が適用されれば、1世帯で見ればたったの262円だが、
  • 東京電力にとっては、100万世帯なら2.62億円、1000万世帯なら26.2億円の割引になるのだ。
  • これは、利益を追求する株式会社としては、株主が注目する要因になりそう。

割引条項は、たとえ独占状態であっても、可能な限りの安定供給・停電時間の短縮の方向へ企業努力を誘導する経済的な一つの仕組みとなるのだ。

  • 夏季には、より多くのピーク電力が必要になり、その対策として計画停電の頻度も実施時間も増加することが予想されている。
  • 割引条項による仕組みは、計画停電がなるべく発生しない方向に作用してくれると思う。

だから、たった262円のことだけど、契約上の消費者の権利として、きちんと主張してみることにした。以前のような世界一の安定供給に回復してもらうことに期待して。