電池不要のラジオづくり
夏休みと言えば、工作である。そして工作と言えば、少年時代に学研の科学の付録についていた、(ゲルマニウム)ダイオードラジオを思い出す。(特に夏休みに作った訳ではないのだけど)電池なしのラジオにつないだイヤホンから、かすかなささやき声が聞こえた時の感動は今でも忘れない。
その感動を今の少年にも味わってもらいたいと、一緒に作ってみることにした。「ラジオを含めた電化製品というものは、電気が無いと役に立たない」幾度かの計画停電を経験して、電気の存在を実感し、そのような既成概念が身に付いた少年には、電池なしでラジオが鳴る、ということが半信半疑のようであった。
キット
部品をバラで購入する、という手もあるが、やはり面倒くさく感じてしまって、お手軽なキットで済ませることにした。実用性は全くないゲルマニウムラジオだが、今でも人気があるらしく、様々なところで手作りキットが販売されている。どれにするか悩むのも面倒なので、お決まりのAmazonで検索してトップヒットしたものを迷わず購入してしまった。
部品代だけを考えれば、おそらく数百円で済むはずなのだが、送料や企画料などでこの値段になっていると思われる。そのように自分を納得させて、素早く購入ボタンを押した。
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- この辺の「面倒くさがり」×2 +「内容を確かめないいい加減さ」が、後々、苦労を引き起こすことになる。
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製作
今時の通販は素早い。早速、翌日に届いてしまった。少年と二人してワクワクしながら作り始めた。
- まずはコイル巻き。10mのエナメル線をラップの芯くらいの筒にきれいに巻き付けていくのだ。
- コイルから自作とは、なかなか侮れない! と思いながら、最初の巻き付けは解けやすいので、20巻きくらい見本も兼ねて巻き付け、あとは少年に任せた。
- 15分くらいして戻ってみると、まだ四苦八苦して一生懸命巻いている。
- 少年にはまだラジオづくりは早すぎたかもしれない、と思いながら、コイルの残りを自分が巻いた。
- コイルさえ巻き終われば、あとは部品を繋げて完成である。
- かすかなささやき声だけども、ラジオが聞こえた時の嬉しい笑顔を想像しながら、組み立て始めた。
ところが、組み立ては予想外にてこずった...。
- ラジオとなる紙の台を組み立てて、そこに3つのスプリングを取り付ける。
- そのスプリングに配線を挟み込んで接続する設計なのだが、配線を挟むのが一苦労だった。
- 紙の強度が弱く、スプリングがすぐに外れてしまう。
- スプリングが固く、そこに柔らかいエナメル線やリード線がなかなか挟まってくれない。
- どうにか配線を終えたときには、少年と二人、大汗をかいていた。
受信テスト
とうとうゲルマニウムラジオは出来上がった!さっそく聞いてみようと、アンテナラインを探したが、嫌な予感は的中した。コイルを巻いている時から、どうもアンテナとなる線が短い、と思っていたのだ。その1mほどのリード線を半分にして、アンテナ線とアース線にするのだと。
み、短すぎる...。50cmのアンテナ線て...普通のラジオなら十分だが、これはゲルマニウムラジオなのだから最低でも10mは必要だろうと思っていた。説明書を読むと、固定電話のケーブルにぐるぐる巻き付けて、そこから電波を拝借するのだと。
あり得ん...。家は7年前から固定電話をやめたのだ。そもそも電話線がないのだ。それに、たとえ固定電話があったとしても、いまどき光回線の家も多いはず。百歩譲ってメタルラインの電話があったとしても、そのあとのアース線の説明を見て愕然とした。アース線は水道に繋げる、と書いてある。50cmのラインを電話線と水道に繋げるなんて、電話と水回りがそれほど近い家ってあるのだろうか?
仕方なく、手近にあったLANケーブルとか、昔使っていた電話線の延長ケーブルにぐるぐる巻き付けてみたが、まったくの無音。アンテナを付け替えたりしているうちに、気付くとスプリングから(選局用の)バリコンの線が外れていたり、イヤホンのケーブルが外れていたりしていた。これじゃ、聞こえる訳が無い。スプリングは配線の接続には最悪の代物だと思った。
スプリングを使うのはやめた。接続したいラインを束ねて、昔ながらのねじり接続をしてみた。これなら素早く、確実に接続できて、滅多なことでは外れない。はじめからスプリングなんて使う必要はなかったのだ。
それにしてもアンテナ問題は解決せず。いっそのことLANケーブルをバラしてアンテナにしようかと考えたが、まだこの先使うこともあるのでちょっと勿体ない。ギリギリ思いとどまって、別の方法を考えた。
アンテナ線の調達
あと10mのエナメル線が余分に入っているだけで苦労せずに聞こえるはずなのに、それがないから苦労する。ならば再びアンテナ線もAmazonで購入するかと考えたが、たかがエナメル線のためにその3倍以上の送料を払うのが無駄に思えた。たかがゲルマニウムラジオに総額2000円もかけて、紙のラジオでは泣けてくる。
こうなったら自力で調達することを決意する。自力で調達って、当てはあるのか? 実は一つだけあった。実家に古いブラウン管テレビがあることを知っていた。もはやアナログ地上波が終わっているので、そのテレビの役割も終わっていた。物置の片隅で埃をかぶって眠っていた。それを分解するのだ!部品とりの始まりである。
- 1990年製のPanasonic 2Shotである。
- 筐体を開けると、ご覧のようにお宝部品が満載されている。
- 外せるネジはすべて外して、部品を片っ端から外してみた。
- 今回の目当ては、ブラウン管の電子ビームをコントロールするコイル。
- そのコイルに使われているエナメル線は相当な長さがある。(おそらく100m以上)
- ちなみに、かつての日本はこのブラウン管の電子ビームを発射する部分の加工技術が世界トップレベルであったと聞いたことがある。
- ここから発射される電子ビームが、裾野に広がる発光体に命中して、その1点を光らせるらしい。
- 電子ビームは左から右へ、上から下へ狙う発光体を移動して発射され、
- 結果的としてブラウン管全体の発光体が光って一つの絵に見えるのだ。
アンテナ設置
エナメル線は手に入った。あとはアンテナを張るだけだ。今やエナメル線はいくらでもある。ここは富豪的に20mを切り出しアンテナとして利用することにした。
- 設置は簡単。部屋の壁に沿って、エナメル線を張るだけでOK。
- 部屋をL時型に半周ほどするアンテナが出来上がった。
- それをゲルマニウムラジオに接続しておく。
アース設置
その部屋は水回りからは遠い部屋なのだが、水道に接続するエナメル線を延長する必要はない。
- 実は大抵の部屋には必ずあるアルミサッシの窓枠がアース代わりになるのだ。(学研の少年時代に気付いた)
- たぶん巨大な金属の固まりだから、アンテナが受信する微弱な電流を吸収してくれるのだと思う。
- 理想は地球(地面)に接続することなのかもしれないが、今や水道管だって塩ビパイプの時代だ。
- 水道にこだわる必要はないのである。(あるいは、そこに流れる水がアースとなるのかもしれないが)
視聴
20mのアンテナ、アルミサッシのアースを接続して、少年と初視聴。まずは自分がイヤホンを付けてみる。「ねえ聞こえる?どう?」と少年に問いかけられるが、いまいち聞こえが悪い。どうも夏の終わりのこの時期は、蝉の鳴き声がうるさくて、ゲルマニウムラジオにとって分が悪い...。
しかし、アルミサッシのアースを指で強く押さえ付けてみると*1、今までにない感度でラジオのトークが聞こえてきた!素晴らしい!会話が明瞭に聞き取れるようになった!「聞こえる、聞こえる」と返すと、「貸して、貸して、早く」と待ちきれない様子の少年。イヤホンを渡すと、さっそく耳に付けて、しばし真剣な顔の後、にんまりと笑顔になった。
「聞こえた!」
- マニュアルによるとかっこ良く着色してこうなるらしいのだが...
- 実際に出来上がったちゃんと聞こえるゲルマニウムラジオはこれ
所感
- 手間を惜しまず、もっと吟味して選べば、もっと味のあるゲルマニウムラジオがたくさんあった。
- Vol.04 ふろく 鉱石・ダイオード付きラジオキット | 大人の科学マガジン | 大人の科学.net(残念ながらもう販売していないようだが...)
- 鉱石ラジオ キット - Google 検索(作った後もちゃんと使えそうな感じのものが多い)
- あるいは、秋月電子などで部品をバラで購入して作っても面白いと思う。
- 先にテレビを分解していれば、ダイオードとイヤホンを入手するだけラジオが出来たはずである。
- ダイオードは錆びた金属と安全ピンで代用できるかもしれない。
- イヤホンは昔使っていたお古を探して、そのケーブルを切断して接続すれば十分かも。(やっぱりNGらいしい。普通のイヤホンでは要求される電力が不足している)
- アンテナをループ型にして、もっと小型で感度が良いものを作りたい。
- アンテナとアースがクリップで脱着可能なタイプだと、本体を持ち運べるので便利そう。
参考ページ
- はじめてのラジオ よろしく!
- バリコンまで手作り。アルミ箔とコップを使って代用品を作っている!
- よみがえれ! ジャンクラジオ
- 電池のいらないループアンテナラジオの製作
- 無電源でスピーカーを鳴らすラジオの製作
- 外部アンテナ&アース不要のゲルマラジオの製作
- どれも興味深い試みばかり。試してみたい!
*1:おそらく、アルミサッシに加えて、自分自身の体もアースとなる効果で感度が上がったのかもしれない