足し算の概念と少年の頭の中

突然だが、以下の式を計算できるだろうか?

1 + 1 =

たぶん、大人であれば、誰もが瞬時に計算できる。当然、答えは2である。

しかし、なぜ2になるのか?その概念を、まだ算数を知らない小学1年生の少年に説明しようとすると、困難を極める。

小学校方式

  • 地元の小学校では、数字を●の数に置き換えて、足し算とは合わせることだと説明しているようだ。
1 + 1 = ● + ● = ●● = 2
1 + 2 = ● + ●● = ●●● = 3
2 + 3 = ●● + ●●● = ●●●●● = 5
  • なるほど、これは分かりやすい、とその時は思った。
  • その少年も、数字を●に置き換えようと、楽しそうに黒く塗りつぶしている。
  • どうも少年は、黒く塗りつぶすことがお勉強だと信じている様子。(○白丸でも良いのだけど)
  • そして最後は「いち、にい...」と●の個数を数えて計算完了。(たいへんよくできました)

小学校方式の問題点

  • その少年は、小学校方式をすぐさま理解し、自分のものにした。
  • もしかしたら天才かもしれない、その時は思った。
  • ところが、少しずつ計算する数が大きくなるにつれ、その希望的観測は儚くも崩れた。
  • 少年は、数が大きくなるにつれ、計算に異様に時間がかかっているようだった。
  • 理由を訊いてみると「●が増えてしまったので、それを数えるのに時間がかかるよ」ということだった。
  • なるほど、少年は教えられた小学校方式を忠実に守っていたのだった。(エライ!)
3 + 5 = ●●● + ●●●●● = ●●●●●●●● = 8
5 + 8 = ●●●●● + ●●●●●●●● = ●●●●●●●●●●●●● = 13
8 + 13 = ●●●●●●●● + ●●●●●●●●●●●●● = ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● = 21
  • このように書き出してみると、あっという間に●だらけになり、これ以上の計算は収拾がつかない...。
  • 少年に●を数える以外の高速計算方法を伝授する必要がある、そう確信した。

ところで一体、自分はどうやって計算しているんだろう?

大人は計算していない

  • 上記の問いを真剣に考えた結果、実は計算していないという結論に至った。
  • 掛け算九九のように意識的に暗記しようとした記憶はないが、一桁同士の足し算・引き算については、すべて暗記していると思う。
    • さらに、二桁の足し算もある程度は暗記している部分があると思う。
  • 1+1=2と瞬時に答えられるのは、計算しているのではなく、暗記しているからなのだ。
  • そして、掛け算九九と同様、足し算九九さえ覚えていれば、どんなに桁数が増えても一桁ずつの足し算に分解して、計算できてしまうのだ。

これは、計算というよりは、頭の中の足し算表を参照している感覚に近い。

  • この足し算九九を少年に教えるのは、ちょっと難題だ。
  • だって、自分さえ足し算九九という概念に、今まで気付いていなかったのだから。
  • 2×2=4「ににんがし」のような記憶術がないのだから。
  • そこで、少年には一桁同士の足し算を毎日、大量に解いてもらうことにした。
    • 単語カードならぬ、足し算カードを作った。(表に計算式、裏に答え)
  • 幼児の能力が残っていれば、絵本をすべて暗記してしまったように、足し算カードも直ぐに暗記してしまうだろう。

二桁以上の概念

  • 少年は100まで数えられる。
    • 19の次は20、29の次は30...といったやり取りが何度かあって、そのうち自然と数えられるようになった気がする。
  • ところで、少年は先ほどの足し算九九をほぼ暗記してしまったようだ。
  • 一桁同士の足し算問題を出すと、瞬時に正解が返ってくる。素晴らしい。
  • ならば、いよいよ二桁同士の足し算を試してみる時かもしれぬ。質問してみた。
    • 自分:「10 + 10 = ?」
    • 少年:「......」
  • そうか、そうか、まだ桁を分けて計算する技を教えていなかった。(ごめんね)
  • 一の位は一の位同士、十の位は十の位同士で計算することを伝える。再度、質問してみた。
    • 自分:「10 + 10 = ?」
    • 少年:「2...」(自信なさそう)
  • そうか、そうか、足し算カードに「0 + 0 = 0」が抜けていた。(ごめんね)
    • 自分:「10 + 10 = ?」
    • 少年:「20...」(自信なさそう)
  • 正解、よくできました。では、次の問題。
    • 自分:「10 + 1 = ?」
    • 少年:「20...」(自信なさそう)
  • そうか、そうか、数字は右寄せで桁を合わせることを教えていなかった。(ごめんね)
    • 自分:「10 + 1 = ?」
    • 少年:「......」
  • そうか、そうか、十の位が存在しない場合は0と考えることを教えていなかった。(ごめんね)
    • 自分:「10 + 1 = ?」
    • 少年:「11...」
  • 正解、よくできました。では、次の問題。
    • 自分:「100 + 100 = ?」
    • 少年:「20...、110...」(自信なさそう)
    • 自分:「107、108、109、次はどうなる?」
    • 少年:「200...」

少年の頭の中

  • ガーン。どうやら、いろいろヒアリングしていると、少年にはまだ十進数の概念が確立していないようだ。
  • 確かに100まで数えられるが、そこには数字が10ずつ循環して桁上がりするという概念はないのだ。
  • 少年にとっては、100までがすべてある。どうやら少年は数字を100進数的な感覚で取り扱っているようなのだ。(100までをひとまとまりで考えている)
  • だから、100以内の小学校方式の計算は得意。
  • 一桁同士の足し算九九も問題なく暗記。
  • ところが、10進数の概念がないので、せっかく足し算九九を覚えても、それをうまく利用できないのだ...。

一体、自分はいつ、どうやって十進数の概念を覚えたのだろう?
少年に十進数の概念を教えるには、どうすれば良いのだろう?
幼児がある日突然歩き出すように、そのうち、時間が解決してくれるのだろうか?

少年の感覚を体感する

  • 曜日は7進数と考えられる。
  • だから、日曜を起点に0と考えると、以下のような計算が成り立つはず。
月曜+月曜=火曜
月曜+火曜=水曜
火曜+水曜=金曜
  • 普段、曜日を計算するという概念はないので「何だこれは?」という感覚かもしれないが、
  • きっと、少年にとっての足し算の感覚とは、上記のような感覚なのかもしれない。