PHEVという車

アウトランダーPHEV(三菱)という車がある。当初、その名前から推測して、よくあるハイブリッド車の一種だと勝手に思い込んでいた。そこにコンセントが追加されて、ちょこっと充電できるようになっただけ だろうと。

ところが、試乗してみて驚いた!コイツは、ほぼ完全な電気自動車であったのだ!満充電でスタートすると、試乗中、エンジンがかかることは皆無だった。バッテリー残量がある限り、どこまでもモーターで走り続けようとする。

アクセルを踏み込む。すると、エアコンを切った静かな車内にウィーンと唸るモーター音がかすかに響き、滑らかに加速が始まる。その加速は想像していたよりもずっと力強い。車重は1.8トンを超えているはずなのに。途切れのない、どこまでも滑らかな加速。トルコンATやCVTにありがちな、出足の空回り感もない。アクセルの踏み加減に敏感に反応して、モーターの回転音が高まり、車速も上がる。心地よい加速だ。真夏の炎天下にもかかわらずエアコンをオフにして(モーター音を聞くにはエアコンやオーディオが邪魔になるので)、モーター走行を楽しんでしまった。

いい意味でカルチャーショックを受けてしまった。ハイブリッド車と思って乗り始めたらエンジン一度もかからず。ダイレクトな加速感なのに、どこまでも滑らか。自分にとっては異次元の乗り味だった。一体、この車はどうなっているのだ?試乗の感動が冷めぬまま帰宅し、PHEVという車の仕組みを徹底的に調べたくなった。

バッテリーとモーター

  • 動力として、モーター×2、エンジン×1を搭載している。
  • 12kwのリチウムイオンバッテリーを搭載している。(日産リーフのバッテリー容量24kwの半分)
  • モーターのみで走行する電気自動車がベースとなっている。
    • 単なるPHVではなく、PHEVと明記しているゆえんである。
    • そのため、バッテリー残量がある限り、基本的にモーター走行をしようとする。
  • 2モーター合わせて164ps/33.9kgf・mもの動力性能を持つ。(前輪用モーター:82ps/14.0kgf・m、後輪用モーター:82ps/19.9kgf・m)
    • 特にトルク33.9kgf・mは、かなり強力!
    • モーターは0rpmから最大トルク33.9kgf・mを出力するので、1.8トンの車体でも想像以上に加速するのだ。

エンジンの役割

エンジンには、発電機駆動と前輪駆動の二つの役割がある。

発電機駆動
  • 基本的に、エンジンは発電機を回すために稼働する。
  • バッテリー残量が少なくなると、エンジンで発電する。そして、モーターを動かし、バッテリーも充電する。
  • 急加速や登坂などで激しい電力消費が発生した時は、バッテリー + エンジンで発電して必要な電力を補う。
    • つまり、2モーターが最高出力を求めた時、バッテリー単体では電力不足に陥るのだ。
前輪駆動
  • バッテリー残量少なく、かつ70km/h以上の走行では、エンジンの駆動力は前輪を回すことに使われる。
  • 120km/h以上の高速走行でも、エンジンの駆動力は前輪を回すことに使われる。
  • エンジンで前輪駆動中にさらに加速しようとすると、必要に応じてモーターがアシストする。

トランスミッションなし

  • トランスミッション(変速機)は存在しない。
  • エンジンやモーター出力は、ギヤ1段を通して直接デフに出力される。
    • だからトルコンATやCVTのような空回り感がなく、ダイレクトな駆動力を感じるのだ!
減速比 アウトランダーガソリン車
に相当する変速比
トルク 最高出力 減速比×トルク
前輪用モーター 9.663 2速相当 14.0kgf・m 82ps 135.2820
後輪用モーター 7.065 3速相当 19.9kgf・m 82ps 140.5935
エンジン 3.425 6速相当 19.0kgf・m 118ps 65.0750
  • モータートルクはデフと直結されて、減速比は常に2速あるいは3速の走りとなっている。
    • 前輪用モーターは、設置スペースが狭いため小径のモーターが採用されたらしい。
    • トルクは小さくなったが、それを補うため高回転化して同じ82psを稼ぐようだ。
    • その結果が前後のモーターの減速比の違い(2速相当・3速相当)に現れている。
    • 減速比とトルクを掛け算すると、どちらも似たような出力値(135・140)になっている。
  • 0rpmから33.9kgf・mを発生する強力なモータートルクと組み合わされて、出足の力強い加速を実現しているのだ!
  • 2速あるいは3速では、120km/h以上になるとモーターはかなりの高回転を要求されるはず。
  • アウトランダーPHEVのモーター性能曲線は公開されていないが、一般的にモーターは高回転になるほど、最大トルクは低下してくるらしい。
  • そのような理由で、高速走行ではモーターを使わず、エンジン出力を前輪駆動に利用しているのかも。
  • エンジンの減速比×トルクは、1モーターの半分程度である。
  • モーター主体の電気自動車であることを主張している。

回生ブレーキ

  • ハンドルの左右にはパドルシフトが付いている。
  • ところが、この車には前記のとおりトランスミッションはない...。
  • ではパドルシフトは何をしているのか?実は、回生ブレーキの強さを調整している。
  • B0(回生なし)からB5(回生最大)まで、回生ブレーキの強さには6段階ある。
  • まるでパドルシフトで減速して、エンジンブレーキがかかるような感覚を生むのだ。
    • B5で走行すると、ほとんどノーブレーキ、アクセルワークだけで走れる。
  • エンジンブレーキで無駄に捨てるのではなく、回生ブレーキで充電しながらスポーツ風走行も楽しめる!

素晴らしい発想!

走行距離

  • カタログ値によると、バッテリー満充電で60.8kmのモーター走行が可能である。
  • カタログ値は最高の条件で走った結果なので、冷暖房・渋滞・傾斜の状況など悪条件が重なると30〜40kmくらいになるかもしれない。
  • 仮にバッテリー+モーターで30kmしか走れなかったとしても、たったの30kmと侮ってはいけない。
  • 自宅を中心に半径15km(往復30kmと考えて)の円を描いてみる。
  • すると、車で移動する日常の行動範囲は、ほとんどその円の中に入ってしまう。
  • つまり、旅行などで遠出しない限り、完全な電気自動車として利用できるのだ。
  • バッテリー切れを心配する必要もない。エンジンで発電あるいは前輪駆動して、かなりの距離を走り続けられる。
    • ガソリンタンクは45lある。ガソリン残量1割を残して40lくらいは使えそう。
    • JC08モードは20.2km/lだ。実燃費が6割だったとしても12km/lは走りそう。
  • よって、実燃費12km/l × ガソリン40l = 480km。バッテリー走行30〜40kmと合わせて、510〜520km以上は走行できそう。
    • 高速走行が多くなれば、実燃費も少し良くなると思われる。
    • 実燃費13km/l × ガソリン40l = 520km。+30〜40 = 550〜560km。
    • 実燃費14km/l × ガソリン40l = 560km。+30〜40 = 590〜600km。
  • 普通のガソリン車と同じように、レギュラーガソリンを給油すれば、どこまでも走り続けられる。

日常は完全な電気自動車として、遠出するとハイブリッド車のように使える素晴らしい走行距離性能がある!

4WD(4輪駆動)

  • 季節によっては雪道を走る機会が多いので、4WDであると安心できる。
  • しかし、4WDの電気自動車はほとんど出ていない...。
  • 自分が知る限り、テスラ モデルS・BMW i8くらいしか知らない。
    • しかし、どちらも1千万円を超える価格。ちょっと手を出せない...。

現時点で、アウトランダーPHEVは世界で唯一の実用的な4WD電気自動車なのだと思う。

  • アウトランダーPHEVは、前後に配置したモーター駆動による4WDである。
    • 条件によっては、前輪がエンジン駆動になることもある。
  • 電気的にシンクロされた前後のモーター制御によって4WDが実現されている。
    • プロペラシャフトもセンターデフもない。
    • 前後のタイヤに機械的な接続関係は存在しないのだ。
  • モーター制御の4WDは素晴らしい性能を発揮するらしい。
    • 機械的に直結していないが、モーター制御によって完全に前後のタイヤを同時に動かし直結状態(4WDロック)を作り出す。
    • センターデフは存在しないが、スリップを検知して、瞬時に前後の最適な駆動力配分を行う。

未だ雪道を走ったことはないが、素晴らしい安定性を期待してしまう!

発電する車

アウトランーダPHEVは、自ら発電する車である!

  • 走行時にバッテリー残量に応じて発電するのはもちろんのこと、
  • チャージモードボタンを押すと、意図的にエンジンで発電してバッテリーを充電する。
  • 充電されたバッテリーの利用価値は、モーター走行だけにとどまらない。
  • 家のコンセントと同じ交流100V 1500Wの出力も可能なのだ!
  • あの震災で計画停電を1週間食らった不自由を知っている身としては、
  • このAC100V電源はオプション装備であるが、迷うことなく追加する!
    • いざという時でもルーター無線LANを起動して、通信環境を確保できる安心感は大きい。
    • パソコン・スマートフォン・テレビ・ラジオを電池切れを気にせず使えるのもありがたい。
    • 車内の掃除で、家で使っている掃除機をそのまま使えるのは便利そう。
    • 但し、カタログで紹介しているような電気炊飯器・電気ポット・ドライヤーを使う需要はなさそうな気がする...。

EVの種類

  • 現時点で自分が知っているモーター走行が可能な電気自動車を調べてみた。
メーカー モデル バッテリー
容量
バッテリー
走行距離
モーター性能 エンジン性能 エンジン役割 駆動方式
テスラ モデルS85D 85kwh 528km 417ps / 67.3kgf・m 4WD(前:モーター・後:モーター)
テスラ モデルS85 85kwh 502km 373ps / 44.9kgf・m RR
テスラ モデルS70D 70kwh 442km 328ps / 53.6kgf・m 4WD(前:モーター・後:モーター)
テスラ モデルS70 70kwh 402km 315ps / 44.9kgf・m RR
BMW i3 21.8kwh 229km 170ps / 25.5kgf・m FR
ニッサン リーフ 24kwh 228km 109ps / 25.9kgf・m FF
ホンダ フィットEV 20kwh 225km 125ps / 26.1kgf・m FF
メルセデス
・ベンツ
スマート electric drive 17.6kwh 181km 74ps / 13.3kgf・m RR
ミツビシ i-MiEV M 10.5kwh 120km 41ps / 16.3kgf・m RR
ミツビシ i-MiEV X 16kwh 180km 64ps / 16.3kgf・m RR
ミツビシ MINICAB-MiEV 10.5kwh 100km 41ps / 20.0kgf・m RR
ミツビシ MINICAB-MiEV 16kwh 150km 41ps / 20.0kgf・m RR
ミツビシ MINICAB-MiEV トラック 10.5kwh 110km 41ps / 20.0kgf・m RR
BMW i3レンジエクステンダー 21.8kwh 196.1km 170ps / 25.5kgf・m 38ps / 5.7kgf・m 発電専用 FR
ミツビシ アウトランダーPHEV 12kwh 60.8km 82ps / 14.0kgf・m
82ps / 19.9kgf・m
118ps / 19.0kgf・m 発電&走行 4WD(前:モーター+エンジン・後:モーター)
ホンダ アコードPHV 6.7kwh 37.6km 169ps / 31.3kgf・m 143ps / 16.8kgf・m 発電&走行 FF
VW ゴルフGTE 8.7kwh 53.1km 109ps / 33.6kgf・m 150ps / 25.5kgf・m 走行のみ FF
BMW i8 7.1kwh 40.7km 131ps / 25.5kgf・m 231ps / 32.6kgf・m 走行のみ 4WD(前:モーター・後:エンジン)
トヨタ プリウスPHV 4.4kwh 26.4km 82ps / 21.1kgf・m 99ps / 14.5kgf・m 走行のみ FF
  • 純粋なEVは、単純にバッテリーとモーターでその性能が決まる。
  • 一方、モーターとエンジンを搭載したモデルは、その使い分けによって多様な性格となる。
  • i3レンジエクステンダー
    • モーター走行専用の完全な電気自動車。
    • エンジンで発電しながら、モーター走行できる。
    • エンジンは発電専用であり、直接タイヤを回すことはない。
  • アウトランダーPHEVとアコードPHV
    • モーター走行を主体に、特定の条件でエンジン走行もあるハイブリッド車
    • エンジンで発電しながら、モーター走行できる。
    • 基本的にエンジンは発電に使うが、高速走行など特定の条件では直接タイヤを回す。
  • ゴルフGTE・i8・プリウスPHV
    • バッテリー残量ある限りモーター走行も可能だが、残量少ないとエンジン走行主体である。
    • エンジンで発電しながら、モーター走行することはできない。
    • エンジンは走行専用である。
      • 但しプリウスPHVのみ、停車中にエンジンで発電してバッテリーを充電できる。
      • 主に家庭用AC100V電源を給電する目的のためと思われる。