自由な映像を求める試行錯誤

前回の日記の通り、MacBookで地デジを見る環境が手に入った。従来のテレビ環境の置き換えという視点では、概ね満足。しかし、これからのデジタルネイティブ世代にとっては、決して満足できる環境とは言えないだろう。

テレビをそのまま見る、ビデオに録ってみる、というシンプルな欲求は満たされている。でも、それがMacBookで視聴できるなら、iPodに転送して視聴したいとか、気に入ったシーンだけ取り出して保存しておきたいとか、MacBookをサーバーとして無線LAN接続した他のマシンで録り溜めた映像を見たい等の自然な欲求が湧いてくる。

でも残念ながら、Capty TV Hi-Visionはそれらの欲求には応えてくれないのだ。

痛い制限とか、不満とか

  • ハイビジョン映像は、視聴ソフトウェア StationTV LE for Macでしか視聴できない。
  • StationTV LE for Macを起動するには、Capty TV Hi-VisionのUSB接続が必須。(アンテナ接続は不要)
  • 画面共有が許可された環境、あるいは画面共有ソフトウェアが起動した状態では、映像が描画されない。(真黒になる)
  • 画面キャプチャ ソフトウェアが起動した状態では、映像が描画されない。(真黒になる)
  • 基本的にMacBookiMacのようなモニタ一体型のマシンでしか視聴できない。
    • 但し、52万画素以下の解像度(960×540、つまりフルHDの半分のサイズ)であれば、アナログRGBで外部モニタに出力できる。
  • 録画した映像のコピーは、ダビング10で運用される。
    • CPRM対応メディアにしかコピー出来ない。(CPRMは、そのメディアからのコピーを防止する規格)
    • DVD・Blu-ray Discに9回コピーできる。
    • DVD・Blu-ray Discに10回コピーすると、HDの映像ソースは消去される。
  • MacBook*1CPRMに対応していないので、せっかく作成したDVDも、MacBookでは視聴できないという状況。(市販の対応プレーヤーなら再生できる)
    • CPRMは、日本独自規格のため、ワールドワイドな製品を展開するAppleが対応してくれる可能性はとっても低い。
  • そもそも、今時DVDなんかにコピーしようなんて思わない。Blu-ray Discは持ってない。
    • 本当はiPodiPhoneにコピーして、手軽に持ち歩きたいのだ。あるいはカーナビのハードディスクにコピーして、車で楽しみたいのだ。
    • DVDやBlu-ray Discには、一般的に据え置き型の再生装置が必要。既にMacBookで同様の映像が見られるのだから、コピーする意味がない。
    • 車ならDVDは見られるのかもしれないが、ディスクの抜き差しを考えると、すべての映像がハードディスクに入っていた方が遥かに楽。

時間に縛られない視聴のために

テレビというのは一方的に番組を組んで、時間を決めて放送して、そのチャンスを逃したらもう見られない。かなり身勝手な存在だ。もちろん、特定の時間に放送することが重要な意味を持つ番組もあるが、ほとんどの番組は見たい時に見られた方が便利なはずである。
その点、YouTube等のWEB経由の視聴なら、必要な時に検索して、見たい時に繰り返し何回でも見られる。(著作権違反で削除申請されない限り)

ところが、基本的にテレビ番組は、YouTube等と同じ仕組みではWEBで配信されないので、見たい時に繰り返し見るためには、自分で録画することになる。しかし、番組を日々チェックするのも限界があるし、内容は放送されるまで分からない。それでも面白い番組は見逃したくない、という欲求が高まると以下のような製品が生まれるのだと思う。


地上波すべての番組を24時間録画し続ける個人のテレビ番組サーバーを作るということだ。しかも、タグ付けまでするサービスがあって、検索することもできるらしい。力技だけど、これならデジタルネイティブの自然な欲求にも対応できそう。でも、よくよく考えてみると、1世帯ごとにこうゆうシステムを準備するのは究極の重複。事業仕分風に言えば...

  • 仕分人曰く:「それは1世帯に1台必要なのですか?」「みんなで共用すれば10世帯、いや100世帯に1台でも良いのではありませんか?」と切り込まれる。
  • 説明人曰く:「著作権上、録画等のコピーは私的利用の範囲でしか認められていないので...」と言葉に詰まる。
  • 仕分人曰く:「個人がやると問題があると言うなら、放送局や著作権を管理する団体がやれば良いのではありませんか?」「1世帯に1台というのはどう考えても無駄です。廃止します。」ということになるだろう。

上記の妄想とは無関係に、最近は民放各局やNHKも番組をWEB配信している。(有料で)ただし、すべての番組ではなく、ドラマ・アニメを中心とした人気のある連続ものの番組のみ。しかも、NHKWindowsだけしかサポートしない。公共放送がなぜそのような区別をするのか理解に苦しむ。最も充実したオンデマンドサービスだと感じていたのに、残念だ...。テレビ番組サーバーまでは必要ないけど、見逃したくない番組、繰り返し見たい番組は、自分で録画する状況は暫く続きそうだ。

それなのに、地デジ放送は、私的利用で番組をコピーする自由さえも大幅に制限している。(痛い制限とか、不満とか)最も困るのは、番組のコピーを厳格に管理することばかりを優先するあまり、本来のユーザーの権利まで奪っていることだ。具体的には、以下のような制限だ。

  • Evernote、SimpleCapが起動中は、Capty TV Hi-Visionの視聴が出来ない。
  • システム環境設定の画面共有が有効になっていても、Capty TV Hi-Visionの視聴が出来ない。

地デジを視聴するために常用しているこれらのソフトウェアを終了するというのは、非常に不便である。どんな権限があって、これらのソフトウェアの利用を制限するのだろう?合法的に利用する意思のある人間にまで、無駄に厳しく制限するやり方には徹底的に抵抗していきたい。

デスクトップのキャプチャを目指して

      • 目的は地デジ映像のキャプチャにあるのではなく、制限された環境を、どうしたら自由な環境に戻せるか、その調査である。

以上の制限は、おそらくCapty TV Hi-Visionが決めている訳ではない。この著作権保護の仕組みを管理する人達が居て、Capty TV Hi-Visionは、B-CASカードの発行を認めてもらうために要求される仕様を忠実に守って設計されただけなのだろう。むしろ、よくぞまあこんなに面倒くさい仕組みを実装できたものだ、と感動した。その技術力は素晴らしいと思う。

stringsコマンドで文字列を抜き出す
  • 自分なら、どんなアプリケーションが起動しているか調べるには、起動中のプロセスの名前を確認すると思う。
  • そして、特定の名前と照合する時は、文字列の比較を行うはず。
  • だから、アプリケーションのリソース、あるいは実行コードの中に対象となる文字列が保存されているはずだ。
  • StationTV LE.appのパッケージを開いて、実行コード以外のファイルを眺めてみたが、それらしきテキストは見つからなかった。
  • 残るは、実行コードの中だと予想して、ターミナルで以下のコマンドを実行した。
$ strings /Applications/StationTV\ LE\ 2\ for\ Mac/StationTV\ LE.app/Contents/MacOS/StationTV\ LE 
...(中略)...
QuickTime Player
gyazo
ScreenBoard
FlickScreen
LittleSnapper
Dikk!
ScreenFlowHelper
ScreenFlow
The Screen Crawlers
Rulers
EvernoteHelper
Evernote
ScrnShots Desktop
Jing
SimpleCap
Timed Screenshot
Snapz Pro X
SnapNDrag
SnapClip
ShowTime
ScribbleScreen
Screenium
ScreenCaptureGUI 2
Screen Mimic
RemoteCapture
PNGoo
PDFoo
MultiSnap
Lilypad
KinoDesk
iShowU
InstantShot!
ImageFlow
GrabberRaster
Grab
FlySketch
fgrab
DesktopToMovie
Copernicus
Click
anno2
Screenshot Plus.wdgt
Capture.wdgt
desktoptransporterd
Desktop Transporter
TeamViewer
LogMeInGUI
LogMeIn
LMILaunchAgentFi
LMIGUIAgent
Tiffany
OSXvnc-server
AppleVNCServer
...(中略)...
  • 出た!stringsコマンドは、バイナリファイルの中に表示可能な文字列があると、それらを抽出してくれる。
  • かなりの数のアプリケーションが対象になっている。これらのアプリケーションが一つでも起動していたら、地デジの視聴はできないのだ。
バイトコードを修正すると...
  • 真っ先に思い付くのは、バイトコードを修正して、上記リストの文字を無意味なものに変更してしまうこと。
  • HexEditorを利用すると、バイナリファイルを直接修正することができる。
  • 修正してみると、見事にStationTV LE.appが起動できなくなった...。
  • 元に戻すと、ちゃんと起動できる。
  • おそらく、ハッシュ値によってアプリケーションの改変を検出しているのだと思う。
  • だからこの方法では、自由を取り戻すことが出来ないと分かった。
アプリケーションの名前を変更してみる
  • 次に考えたのは、それなら起動するアプリケーションの名前を変えてしまってはどうだろうか?ということ。
    • アプリケーションのファイル名
    • info.plistの以下のキー値
      • CFBundleExecutable
      • CFBundleIdentifier
      • CFBundleName
    • Resources/Japanese.lprojとResources/English.lprojのInfoPlist.strings
  • 以上の「QuickTime Player」の部分を「Q_uickT_ime Player」に変更してみた。
  • こんなことして、果たしてQ_uickT_ime Playerは起動するのだろうかと心配したが、ちゃんと起動した。
  • 続いて、StationTV LE.appを期待して起動してみるが、やはり「画面キャプチャアプリの起動を検出したため映像再生の処理を中断しました。」と表示されたしまった...。
  • 状況変わらず。なぜだろう?(QuickTimeは特別なのかな?)アクティビティモニタで確認しても、プロセス名は「Q_uickT_ime Player」になっているのに。
  • StationTV LE.appの検出能力恐るべし。
対象でないソフトウェアを見つける
  • 名前の変更が失敗したので次の作戦。画面キャプチャアプリとして登録されていないと思われるアプリを探してみる。
  • 世界のどこかで、実にいろいろな画面キャプチャアプリが開発されているものだ。そのすべてを網羅できるはずがない。
  • 探してみると、すぐに見つかる。
  • そして、そのアプリであればStationTV LE.appで視聴しながら、画面キャプチャすることもできた!ちょっと満足。
キャプチャソフトウェアを自分で作る
  • 未知の画面キャプチャアプリなら、問題なく利用できることは分かったが、StationTV LE.appに取り込まれてしまったらやはり利用できなくなるはず。
  • このいたちごっこの連鎖を断ち切るには、究極は自分で画面キャプチャアプリを作ってしまえば良いのだ。公開しない限り、ずっと利用できるはずだ。
  • しかし、もちろん自分には画面キャプチャアプリを1から開発する技術はない。
  • でも、アップルのページには親切なサンプルコードがある。そのサンプルコードをちょっと修正するぐらいなら簡単にできる。
    • OpenGLCaptureToMovie
    • ビルド済のアプリケーションを試してみると、見事にキャプチャできた。(10秒間)
    • OSX 10.4環境のサンプルコードなので、環境を整えるのが面倒かもしれないが、これを修正すれば自分好みなアプリケーションになりそう。

制限された環境で我慢しておく

以上、いろいろ試してみたが、画面キャプチャしてまで制限のない映像で録画する執念もないし、アプリケーション名を変更するのも面倒だし、後で何かのトラブルになるかもしれず、あまり積極的にやる気は起きない。求めているのは、苦労最小限で手軽に視聴できる環境なのだ。制限のない映像を見るために、面倒な操作が必要になるのでは、あまり解決にならない。
そもそも、ダビング10の制限さえなかったら、StationTV LE.appの操作性はかなり快適だと思った。

  • Apple Remoteでリモコン操作できる。
  • iEPGにも対応している。
  • 録画予約も、電源OFFの状態から起動して、録画して、予約時間が終了すれば再び電源OFFになる。
  • 外出先で、iPhoneから予約録画を追加することもできる。
  • 録画中の追いかけ再生もできる。
  • 裏番組の録画もできる。

制限された環境で工夫して使った方が、余計な苦労をしなくて済みそうだ。

  • 視聴用のユーザーを追加した。
    • 制限される画面キャプチャ・画面共有アプリを起動していない環境にしておいた。
    • Dockやデスクトップには余分なアイテムはおかず、視聴に特化した環境にしてしまう。
    • チャンネル選択にはショートカットも割り当てた。
  • ファストユーザースイッチで視聴環境に切り換える。
    • マニュアルには、ファストユーザースイッチには対応していないと書かれているが、
    • 複数ユーザーがログインしていても、最初にログインしたユーザーなら、StationTV LE.appでちゃんと視聴できる。
    • 視聴用のユーザーで自動ログインする設定にして、その後、常用するユーザーでファストユーザースイッチでログインする運用にした。
    • 見たい時には、視聴用のユーザーに切り換えれば、いつでも快適に視聴できる。
  • 容量の大きなハードディスクを追加した。
    • 今時のハードディスクの容量と価格には驚く。
    • 2.5インチサイズなら、500GB、7000円代が標準的。
    • これだけの容量があれば、フルHD映像でも60時間以上は録画できる。
    • ますます、DVD・Blu-ray Discにコピーする意味が見いだせなくなって来た。
    • 故障が心配であれば、もう1台追加してバックアップすれば解決する。
    • そのうちTB(テラバイト)が標準単位になるだろうし、数年ごとに容量は倍々に増えていく。
    • コストパフォーマンスが良いハードディスクを湯水の如く利用した方が快適だ。

FriioB-CASカードとCPRM

  • 残った唯一の不満は、iPhoneiPod等に地デジ映像を転送できないことだ。
  • それはフリーオ経由で録画した映像なら、コピーワンスダビング10などの規制から開放されるので、動画形式を変換するだけで実現できそう。(Friioが手元にないので実際に試してないが)
自分が理解したFriioの仕組み
  • スクランブルのかかった電波を地デジアンテナで受信。
  • 地デジチューナーでB-CASカードの情報を利用してスクランブルを解除。映像が視聴可能になる。
  • 電波産業会は、録画する時に以下の処理を実施してから保存することを規定(紳士協定)
    • CCI(コピー制御信号)をコピーワンスからコピー禁止に書き換える。
    • スクランブル解除された映像を再び暗号化する。
    • そして、ハードディスクからのコピーはCPRM対応メディアにしか許可しない。
  • 電波産業会の規定に従わないと、B-CASカードを発行してもらえないので、多くのメーカーは上記の仕様を守る。
  • ところが、Friioスクランブル解除した映像をそのまま保存する。(異端児)
    • そのまま保存された映像は、一般的なアプリケーションで自由に視聴できるし、画像形式も自由に変換できる。
  • だから、電波産業会はFriioに対してはB-CASカードを発行しない。FriioにはB-CASカードが添付されていない。
    • 当初は、Friioユーザーは他の機器に添付されているB-CASカードを差し替えて利用していた。
    • そうのち、B-CASカードの情報はWEB経由で共有されるようになり、遂にB-CASカードは不要になってしまった。
  • スクランブル解除された映像を一切改変せずそのまま記録する、製造と販売は日本国外で行われている、B-CASスクランブル方式Multi2の特許も2008年4月28日に期限切れ等、Friio自体の法律的な違法性はギリギリのところで回避されそうな状況である。
  • Friioについては、基本的にWindows環境での利用が整備されている。
  • Macで利用するには、以下のページが参考になりそう。

自由な映像が欲しい

  • iTunesiPhoneiPodと同期する感覚で、地デジ映像も取り扱えるようになれば良いのに。
  • いつかはそんな便利な世の中になることを期待している。
  • あるいは、永遠に地デジ映像の取り扱いがこのままだと、いずれ人々は地デジから離れていくのだと思う。
  • 確かに著作権は保護される必要がある。しかし、権利は主張し過ぎると、反感を買うのだ。*2
  • 特に、広告媒体で成り立つ映像は、多くの視聴者にも支えられている。
  • 視聴率が落ちて宣伝効果が低下すれば、番組の価値も低下してしまう。
  • 日本の地デジが悪しきガラパゴス化して権利を主張しているうちに、
  • 世界のどこかで、より利便性の高い、著作権もバランスよく保護されたサービスが開始されてしまうかもしれない。
  • 実際、YouTubeでは、すでにフルHD規格の映像も配信されている。
  • その映像は、iPhoneiPodでも手軽に見られる。(解像度はダウンサイズされるが)
  • 著作権を主張する人達は、高品質なデジタル映像はコピーによる劣化がないから、という理由で徹底的な保護を求めているが、
  • 一視聴者の視点で考えれば、それなら今までのアナログ地上波レベルの映像で十分であり、自由に取り扱えた方が遥かに魅力的だと思う。
  • 1放送局で多重化して3チャンネルに分けることができるのであれば、そのうちの1チャンネルで映像品質を落として放送しても良さそうな気がする。(ワンセグ放送よりは高品質な映像で。そんなこと出来るのだろうか?)
  • 本来、スクランブル処理する必要のない地デジ映像にB-CASカードの利用を義務づけ、余分な費用負担が発生している事実もある。(B-CASカードを発行している会社は儲かるはず)
  • 著作権の正論を盾にした利権のしがらみで、日本の社会全体の幸せ指数は大幅に低下する。

とにかく、もっと自由に視聴を楽しみたいものだ。地デジは何を目指して、どこに向かっているのだろう?


*1:MacBookに限らず、Appleの全製品、OSXCPRMなんて規格をサポートしていない。

*2:GIFの特許問題のように