伝記スティーブ・ジョブズをとっても興味深く読む方法

伝記スティーブ・ジョブズには、いろいろなエピソードが出てくる。しかし、すべてのことが詳細に書かれている訳ではない。書籍には限りがある。だから、関連したキーワードを調べてみると、また世界が広がるかもしれない。

日本語訳の奮闘記

  • 今回の伝記スティーブ・ジョブズは、各国語翻訳版の世界同時発売ということになっている。
  • 原著の原稿は3部に分かれて、7月頭・8月頭・9月半ばに訳者の元に届いたそうである。
  • 当初の11/21発売予定も、諸事情によって10/24に繰り上げられ、限界を超えた翻訳作業が続いたそうである。
  • その辺の話しは以下のページに綴られている。


訳者の井口さん曰く...

■品質への影響
その無理は翻訳の品質に影響を与えないのか?

影響、あります。あるはずです。プロの翻訳者として、「影響ありません」なんてウソは言えません。正直な話、影響はあると思っています。

...(中略)...

●疲れによる品質低下

心配もしており、かつ、正直なところ、絶対に影響が出ているはずだと思うのが、「疲れによる品質低下」です。翻訳の場合、まず、原文の意味やイメージを把握します。そのあと、それをぴったりな日本語で表現するわけですが、その際、(同意語辞典などの助けも借りながら)連想ゲームのようなことを頭のなかでやり、いろいろなバリエーションの中からこれがいいと思うものを選びます。疲れがたまれば頭の働きは落ちるはずで(落ちたかどうかを判断する能力も落ちるので、本人は頭の働きが落ちた感覚がなかったりしますが)、頭の働きが落ちれば連想ゲームで思いつく範囲が狭くなったりします。あと一歩広がればいい表現に思いついたかもしれないのに、そこに到達できずに終わってしまうわけです。この影響は、あったはずです。意識はしていませんが(というか、意識しようにもできないことなわけですが)。

...(中略)...

http://buckeye.way-nifty.com/translator/2011/11/4-e807.html
  • 但し、できる限りの努力をして、その影響を小さいレベルに押さえ込む努力をされているとのこと。

世界同時発売の影響

  • それにしても、何故に各国語翻訳版の世界同時発売、という出版方法にしたのだろう?
  • 翻訳は原著が完成してから行われるものだから、同時発売を目指すなら、翻訳語版の作業を考慮した発売日にする必要があるはず。
  • にもかかわらず、最終的には当初の発売日から4週間繰り上げて発売に踏み切ってしまっている。
  • 原著では各章に挿入されている写真も、日本語版ではその一部が巻頭に集められた状態になっている。(日本語版の各章に写真はない)
  • 原著にある写真が見られないのは非常に残念である。
  • 仕方なく、Amazon Kindleで原著の英語版を購入してしまった。
    • $11.99(≒929円)だった。(衝動的にポチリ易い価格だ)
    • 原文の英語を通して読むほどの英語力は自分にはない...。

"Regions" = 「領域」?

  • "Regions"が「領域」と訳されてしまっている部分(第8章 偉大な芸術家は盗む iPadでP209/564)は、残念な気がした。
  • 自分の中では、"Regions" = 「リージョン」である。訳さずに英語の響きそのままのカタカナ表記として欲しい。
  • 2つのウィンドウ同士が重なったとき、下のウィンドウは上のウィンドウに隠され、画面に見えている部分はL字型の領域となる。
  • もし、下のウィンドウの内容が変化したとき、下のウィンドウ全体を描いてしまうと、重なっている上のウィンドウの内容まで侵してしまう*1ことになる。
  • ウィンドウの重なりを考慮すれば、L字型の領域のみ描画すべきなのだ。
  • QuickDraw(Macintoshの描画ルーチン)なら、ウィンドウの重なりを考慮して、L字型の部分のみを描画してくれる。
  • ウィンドウの重なりは2つとは限らない。3つ、4つ、あるいはそれ以上のウィンドウが重なって、複雑な領域形状となっている可能性がある。
  • しかも、ウィンドウの角は丸みを帯びているかもしれない。曲線を含む複雑な形状となるかもしれないのだ。
  • そのような場合でも、QuickDrawは素早く、必要な部分のみ描画する仕組みを備えている。

その仕組みこそが「リージョン」と呼ばれるもの。

  • 「リージョン」とは、QuickDraw、さらにはMacintoshGUIを可能にした最も重要な機能の一つなのだ。
  • そんな訳で、"Regions"が「領域」と訳されている部分を読むと、自分の中ではガックリしてしまうのであった。
  • これはスティーブ・ジョブズの伝記であり、技術書ではないのだから、しょうがないとも言える。
  • でも、仮にもっと十分な翻訳・校正の時間があったら、「リージョン」と表記された可能性もある。
  • いや、訳者の井口さんなら最終的に「リージョン」とするはずだと想像する。
  • Appleの文献、ひいてはWeb検索において、QuickDrawに関連する技術として「リージョン」という表記が多数出てくるのだから。

例:

ティージョブズの電卓自作セット

ジョブズから指摘があるたび、毎日のようにエスピノザは改良を重ねる。しかし、どこをどう直しても必ずなにかを指摘される。それならばとエスピノザが開発したのが、「スティーブ・ジョブズの電卓自作セット」だ。

...(中略)...

ジョブズは真剣にいじりはじめ、10分ほどで自分好みの電卓を完成。当然かもしれないが、この電卓はマックとともに出荷され、その後15年ほどもスタンダードとして使われた。

伝記スティーブ・ジョブズ 第12章 書体へのこだわり(iPadでP266/564)
  • なんと!OS9までのアップルメニューに含まれる計算機は、ジョブズのデザインだったのか!


角の丸い四角形

ある日、ビル・アトキンソンがテキサコタワーにわっと駆け込んできた。円や楕円を素早く描けるアルゴリズムを思いついたのだ。...

伝記スティーブ・ジョブズ 第12章 ポルシェのように(iPadでP261/564)

Think different

ひまわりiMac

ローリーンがたくさんのヒマワリを植えた庭を二人で歩く。
...(中略)...
そのときジョニーが『ヒマワリのような感じにスクリーンをベースから分かれさせたらどうだろう?』と言い、うん、そうだ、それがいいとスケッチをはじめたのです」

伝記スティーブ・ジョブズ 第33章 貝殻、角氷、ヒマワリ(iPadでP312/547)

必ず掛かってくる電話

ロンドン出張のホテル選びも苦労したらしい。アイブが選んだのは、サービスに定評のあるザ・ヘンペルという5つ星のこぢんまりとしたホテル。ここならジョブズも気に入るだろうと思ったのだが、チェックイン直後、これはまずかったかもと身構えた。案の定、1分もすると電話が鳴る。
「なんだこの部屋は。ひどすぎる。でるぞ」

伝記スティーブ・ジョブズ 第34章 50歳の獅子(iPadでP339/547)

ゴリラガラス

化学交換法という製法を開発し、「ゴリラガラス」と呼ばれるガラスを作ったこと、信じられないほど強いが市場がなく、作るのをやめたことを話す。

伝記スティーブ・ジョブズ 第35章 ゴリラガラス(iPadでP357/547)

自分の経験

  • 以前、iPhone3GSに保護フィルムを貼って、1年半使用していた。
  • ある時、iPhone4のRetineディスプレイを見て、その画面品質に嫉妬した。
  • 3GSとの差は何だろうと。思い付いて3GSの保護フィルムを剥がしてみた。
  • すると、予想外に3GSの画面もクリアなことに気付いた。
  • 今までの1年半、くすんだ画面を見ていて損した気がした。
  • ゴリラガラス採用のiPhone4以降は、保護フィルム無しで使うべき?
  • 試しに現在iPhone4Sを保護フィルムなしで使用中なのだ。
  • 腕時計のガラスにも保護フィルムなんて貼らない。(だから、iPhoneでも試してみる)
  • さらに、最近はゴリラならぬ、ゴジラガラスなんて代物も開発されているらしい。
  • ゴジラにもびくともしないガラス。それが実現された暁には、保護フィルムも、保護ケースも不要になってしまう日が来るのかもしれない。

アンテナ問題

リードもハワイから連れて戻ることにする(リードは高校の最上級生だった)。
「お父さんはこれからたぶん2日ほど、会議漬けになる。そのすべてにお前も出ろ。この2日で、ビジネススクールに2年間通うよりもたくさんのことが学べるはずだ。世界でもトップクラスの人間がとても難しいことを検討し、決めていく瞬間に同席し、...」

伝記スティーブ・ジョブズ 第38章 アンテナゲート――デザイン対エンジニアリング(iPadでP453/547)
  • 驚いたことに、その記者会見のあと、ジョブズはハワイに戻り、そして京都に来日していたのだ。

ジョブズは、子どもたちに約束したことがある。13歳の誕生日を迎え、ティーンエイジャーになるときには、それぞれ、どこでも好きなところに連れて行ってやる――だ。...

伝記スティーブ・ジョブズ 第40章 家族の絆(iPadでP490/547)

愛妻家

20周年にはちょっとしたサプライズとして、結婚式をあげたヨセミテのアワニーロッジにパウエルを連れていこうと考えた。しかし予約がいっぱいだと断られてしまう。あきらめきれないジョブズは、自分たちが泊まったスイートを譲ってくれないかと、予約した人にホテル経由でたずねた。...

伝記スティーブ・ジョブズ 第39章 iPad2(iPadでP468/547)

宿・寺

休暇で度々訪れるハワイや日本の宿が気になった。

テクノロジーリベラルアーツの交差点


所感

  • ジョブズ本人への取材を元に、公式伝記として、いろいろなことの真実が確認できるところは素晴らしい。
  • 英語版と日本語版がリンクして原文と訳文が比較できると、いいなあ。
  • 重要なことは散歩しながら話す、のがジョブズ流。(なるほど)
    • 「散歩」をキーに検索してみると、重要な決定に散歩が絡んでいて面白い。
  • 日本国内の伝記スティーブ・ジョブズは、(1・2合わせて)紙本の発行部数は百万部を超えたそうである。
  • 電子書籍も、おそらく相当な販売部数となっていると思われる。(発売後2日間の販売部数が電子書籍は紙本の5割と発表されていたので)
  • 今回、iPadで長編の電子書籍を読んでみて、紙本と遜色なく読めることが体感できた。
  • さらに電子書籍なら、本文検索、辞書・webなどとの連携もできる。
  • もっと進化すれば、webベージをソーシャルブックマークするように、電子書籍の本文を自由にブックマークして、感動を共有できるようになるかもしれない。
    • 実際、KindleにはPopular Highlightsという機能があり、多くの人がマーカーを引いた部分を共有できる仕組みが用意されていた。
  • 本当は、このブログに書いたような関連情報は、電子書籍の本文にマーカーを引いた部分からリンクできる情報として共有できると良いのだと思う。
    • そうすれば、自分の知らいない新たな関連情報を手軽に得られる強力な手段となる。
  • もし、教科書が電子書籍に置き換わった時、このような情報共有の仕組みは、電子書籍の相当な魅力となりそう。
    • 多くの学生がどこに興味を持っているとか、どこが理解できていないとか、判断し易くなるのだ。
    • それらの情報は、教える先生にも、教わる生徒にも、とっても重要な情報なのである。
  • また、電子書籍はアップデートが可能なはずである。
    • 実際、アプリ版のスティーブ・ジョブズは、バージョン1.2にアップデートされている。
      • > 本文中の誤字を修正しました。
      • > 奥付に情報を追加しました。
  • 今回、時間的要因で日本語版に含まれなかった内容は、講談社のWEB上にPDFとして公開されているが、
  • 電子書籍版には、それらの情報を付加した修正版を配信してくれれば良いのにと思った。
    • そのようなことができるのが、電子書籍の良いところ。
  • 原著の英語版の各章ごとに付加されている写真も、追加して欲しい気持ちでいっぱいだ。
  • 伝記スティーブ・ジョブズは、自分が電子書籍のあり方を真剣に考える機会になった。
  • 世界中でミリオンセラーとなっているので、自分以外の多くの人も、電子書籍に不満や期待を抱く、きっかけとなっているはず。

もしかしたら...(勝手な想像)

  • ジョブズは、iTunesのような標準のない電子書籍の世界に、自身の伝記をとおして一石を投じたかったのかもしれない。
  • それがジョブズ最期の仕事であり、伝記の執筆を依頼した、もう一つの理由なのかもしれない。

*1:そう、幾重にも重なっているように見えるウィンドウだが、実は物理的なディスプレイは1枚しかなく、ウィンドウを動かす度に、あるいはウィンドウの内容が変化する度に、1枚のディスプレイに必要な部分を高速に描画しているに過ぎないのだ。